捨てようと思った本が

棚の最下段にあったオレンジ色の本には「潮騒」のタイトルが 3月半ばに佐伯支局に赴任以来、一回も見たことも触ったこともない資料が壁際の棚に詰め込まれている。いつのものか分からないのもあれば、30年以上前の新聞の切り抜き(スクラップブック)がある。ほこりをかぶっているし、とっておいても使いそうにない。いっそ全部捨ててしまうか。そう思って眺めていると、棚の最下段にオレンジ色の本が4冊あるのが目に入った。

 オレンジ色の表紙に「潮騒」とあり、その上に小さい文字で「フロム市長―トゥ市職員」とある。分厚い方が「その1」、薄いのが「その2」。2冊1組で、それが2セットで合計4冊あった。著者は後藤國利。発行は平成12(2000)年6月1日となっていた。

 1997(平成9)年1月の臼杵市長選に勝利して市長に就いた後藤さんが、初日から市職員に宛てて書いた手紙のつづりがこの「潮騒」である。2000月3月28日までの383通が2冊に収容されていた。

 後藤さんと言えば市町村の会計にバランスシート(貸借対照表)を導入した草分けといえる。なぜ、バランスシートが必要だったのか。

 後藤さんは2000年2月3日の「3年前は内定予算の返上から始まった~危機脱出から活力再生へ①」で、次のように書いている。「想像以上の財政危機」の小見出しで「県会議員を(市長就任の)2年前までやっていたということもあって、臼杵市の財政が悪化していることはうすうす知ってはいましたが、実際にあそこまで危機に瀕しているとは思いもよりませんでした」

 市財政については市民に報告することが義務づけられ、毎年公表されてきたが、それからは市の本当の財政状態が読み取れない。

 別のところでは職員の退職金の問題を例に挙げている。いくら必要かが分からない。自治体の会計には引当金がないため、簿外債務となっている。試算すると58億5千万円の手当が必要となった。職員の退職金が最大の簿外債務になっていると後藤市長は言う。

 臼杵市の財政は火の車である。それを市職員や市民に理解してもらうためには自治体もバランスシートを作成し、きちんとした情報公開が欠かせない。

 今ならば常識と思えることも、当時はなかなか理解が得られなかったのだろう。職員に対する手紙の中で繰り返し、繰り返し、財政危機と会計システム改革について書き、改革の重要性を説いている。

 もう一度、2000年2月3日の手紙に戻ろう。3年前に初めて臼杵市の台所事情を目の当たりにして愕然とした後藤市長は、なりふり構わず予算を削った。

 清掃センターの大規模改修で内定していた厚生省(現厚生労働省)の予算を返上。総合運動公園内に陸上競技場を建設するための予算も内定していたが、それも返上。大分県知事と約束した南蛮資料館建設は100年延期にしたという。

 振るったのは大なたばかりではない。「1%の節約1%の進歩~1%余産運動の展開を!」(1997年5月28日)では「電気代とか水道料とか節約できるものは昨年より1%だけでも節約するように心掛けを」などと呼びかける。そして「1%だけの節約と進歩で十分です」「大きな節約、大きな進歩は要りません」と書いた。

 臼杵市の主な行財政改革後藤市長時代に話題になったものはまだある。「市長車売ります」もその一つである。その理由を97年5月6日に書いている。市長の仕事は大変忙しいので車は必需品だが、市長車が489万円の高級車である必要があるか。市長しか使えない車は無駄であり、空いている時は職員も使える車が望ましい。倹約に努める市長の姿勢を示すためにも売却すると説明している。

 課長研修でトイレ清掃を実施したのも後藤市長(当時)である。どれも当時大きな話題になったということは破格の発想と行動だったということだろう。

 その分、波風も強かったのではないか。バランスシートの作成など今では常識と思えることも、最初は一筋縄ではいかない。反対する側にも言い分がある。それを説得しなければならない。「潮騒」はあらためて先輩の苦労を教えてくれる貴重な資料だった。

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