著作権を調べてみる②

臼杵城址横にある早春賦の歌碑 臼杵市で取材を一つして大分市にある大分県立図書館に足を伸ばした。4月5日付佐伯支局長日誌「著作権を調べてみる①」の続きである。前回は著作物の利用に関する財産的な権利である著作権とは別に、著作者人格権があることを知った。5日はそこまででくたびれて著作者人格権について調べることを次回の宿題にしていた。少し時間があるので調査の続きをやることにした。

 まずは「著作権」「判例」とキーワードを打ち込んで蔵書を検索した。すると28件の表示が。リストの最初に「著作権判例百選【第5版】」(小泉直樹ほか編)とある。次に「判例でみる音楽著作権訴訟の論点60講」(田中豊編)。これは使えそうだ。この2冊をピックアップし、後はリストの中から適当に「著作権法詳説」(三山裕三著)を選んだ。

 なにせ素人だから、本の選び方もいい加減である。本の場所を示す「資料情報票」を印刷し、目的の本がある書棚に行ってみた。すると、書棚に「音楽ビジネスの著作権」(前田哲男・谷口元著)があった。こちらの方が参考になりそうだ。

 ということで判例百選と音楽著作権訴訟の論点60講、音楽ビジネスの著作権の3冊をぱらぱらめくることにした。

3月12日の吉丸一昌像除幕式 なぜ、著作権について調べることになったのか。「CMの早春賦」がきっかけであることは4月5日付、3月25日付、3月12日付の佐伯支局長日誌に書いている。発端は3月12日に臼杵市の大手門公園で行われた吉丸一昌の銅像除幕式だった。一昌の孫である吉丸昌昭氏が関係者を代表して銅像を立ててもらったことのお礼を述べた。

 昌昭さんの挨拶はそれで終わらなかった。3月12日付佐伯支局長日誌「CMの早春賦に異議あり」に次のようにある。

 一言前置きがあって話し始めたのは「保険会社のCM」について。「早春賦の歌を変えてしまったのは悲しいことです」と。何のことかとピーンと来なかったが、そういえば何かテレビのCMがあったような気がする。吉丸さんは保険会社に抗議の手紙を送ったそうだ。それで保険会社の広報担当者とCM制作会社の担当者が訪ねてきたという話だった。

 歌詞を自由につけることが悪いと言っているわけではない。ただ、原作にもしかるべく敬意を払ってほしい。そんな趣旨だったようだ。除幕式の取材を終えてネットで「保険会社」「早春賦」と検索してみると、三井住友海上火災保険のCMだと分かった。

 ちょっと長いが3月12日付の日誌から引用してみた。早春賦は1913年に制作されたとされ、吉丸一昌は1916年に亡くなっている。著作権で保護される期間は過ぎているし、著作者人格権も著者の死とともに消滅するのだそうだ。

 「音楽ビジネスの著作権」には著作者人格権は個人の人格と深く結びついているため、譲渡できませんし、相続もされません(これを一身専属性と言う)とあった。すると、著作権の関係ではCMの早春賦はなんら問題がないことになる。

 だが、これでは話が終わらない。「しかし、著作者の死後には作品をどのように改変しても自由かといえば、そうではありません」と続きがある。「著作物を公衆に提供・提示するときは、原則として著作者が生存していると仮定すれば著作者人格権の侵害になったであろう行為はしてはならないと定められている」と「音楽ビジネスの著作権」にある。

 「著作者死後の人格的利益」というのがあるようだ。「著作権判例百選【第5版】」には「剣と寒紅事件:控訴審」と書かれた東京高裁判決の解説があった。三島由紀夫の未公表の手紙とはがきを掲載して発行した小説「三島由紀夫-剣と寒紅」の執筆者に対し、三島の相続人が出版差し止めや損害賠償の支払い、謝罪広告の掲載などを求めて裁判を起こした。

 裁判は相続人の訴えが認められた。この判決は、遺族に著作者死後の人格的利益を保護する権利を認めていることが極めて明確に示されたところに意義がある、と解説があった。

 著作者人格権は本人の死とともに消えるが、著作者死後の人格的利益というものは残っている。

 では、歌詞を変えた早春賦のCMは吉丸一昌の「著作者死後の人格的利益」を害するものと言えるのか。

 「判例でみる音楽著作権訴訟の論点60講」を見ると「CMへの楽曲の使用と著作者人格権」というケースがあった。「アサツーディ・ケイ事件」と書いてある。

 キリンビバレッジが清涼飲料水の新商品のCMに坂本龍一氏の「Merry Christmas Mr.Lawrence」を使おうと考えて、アサツーディ・ケイが同楽曲の著作権者である音楽出版者の許諾を得た。だが、音楽出版者が坂本氏の承諾を受けていなかったためにオンエア直前に坂本氏からストップがかかった。

 アサツーディ・ケイは、坂本氏の了解を得ていなかった音楽出版者に対して損害賠償を求めて提訴し、勝訴した。

 ここでの争点は①CMに楽曲を使用する場合と著作者人格権との関係②CM用に楽曲を使用することを許諾する場合に、当該楽曲の著作権者である音楽出版者に、著作者の承諾を得る義務があるか-の2点だそうだ。

 判決は、当該案件は楽曲がCMの対象とする商品等の特定のイメージに結びつくのみならず、本来の楽曲自体が改変されて使用されることになるから、著作者がそのような使用を承諾していない限り、原則として著作者人格権侵害にあたるとした。

 判決の「考察」として「CMに既成曲を使用する場合に著作者の承諾を必要とする理論的背景」が解説されている。

 著作者人格権には「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」と並んで、第四の権利である「名誉声望権」があるのだそうだ。名誉声望とは「人格的価値について社会から受ける客観的な評価」で、「創作意図から外れた利用」がなされたときに名誉声望権が侵害されたとみなされるのだという。

 よく分からないが、特にCMなど特定の企業、商品のイメージに結びつきやすい場合の利用は要注意だろう。「一般的な意味で事前に名誉声望権への配慮が必要になることは明らかである」と音楽著作権訴訟の論点60講は解説している。

 長々と書いてしまったが、遺族(吉丸一昌の孫)が早春賦のCMについて「創作意図から外れた利用」であり、「名誉声望権」を侵害していると主張したらばどうなるだろうか。

 ここから先は専門家に聞いてみるしかなさそうだ。

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