ベーシック・インカム①

ベーシック・インカムについてのOECDのレポート 先週、OECD(経済協力開発機構)から1通のメール(日本語)が届いた。「ベーシック・インカム(BI)の賛否を巡り多くの国々で行われている活発な議論に寄与するために新たなレポートを発表した」のだそうだ。それが左の資料。以前にベーシック・インカムという言葉を聞いた記憶はあるが、どんなものか憶えていない。このレポートを読むには基礎知識が必要である。そんなことで大分県立図書館に行って6冊ばかり借りて読むことにしたのだが…。

 借りてきた中で一番薄い本が「ベーシック・インカム-国家は貧困問題を解決できるか」(原田泰著、中公新書)。2015(平成27)年2月発行とあるから、2年以上前のものになる。

 その「はじめに」に「BI(ベーシック・インカム)については、日本において、21世紀の最初の10年間の後半に議論が盛り上がった時期があった」と書いてある。つまり2006~10年頃ということか。しかし、日本ではその後、議論は低調になったようだと著者は言う。

 原因の一つは「BIは巨額の財政支出を伴うという誤解」がある。もう一つは「貧困とはお金がないことではなく生活をめぐる根深い問題なのだという考えが流布したからだろう」と著者は分析する。そして、「本書はこれらの誤解をただし、超高齢化社会に向かう今こそBIについて正しく理解していただきたいと思って書いたものである」とあった。これは入門書として最初に手に取るのに良さそうだ。

 ベーシック・インカムとは、著者も書いているように、基本は「すべての人に最低限の健康的で文化的な生活をするための所得を給付する制度」である。例えば子どもも大人も、収入が多い人も少ない人も全員に一律毎月15万円を国が給付するとしよう。

 そんなことすれば財政はたちまちパンクしそうだ。既存の諸制度を残したまま、そこに上乗せすれば破綻は間違いない。だから現行制度を根本的に見直すことを同時に行わなければならない。

 子育てや医療、福祉などさまざまな分野で現金給付や現物給付が行われている。子育て家庭には児童手当の支給がある。自治体による子どもの医療費無料化も進められている。年金や医療・介護にも国は多くの資金を投じ、国民の生活を支えている。現行の仕組みでかつて人類が経験したことのない超々高齢社会を乗り切れるのか。格差の是正、世代間の不公平の解消は進むのだろうか。「既に目の前にある危機」に対して日本では本格的な議論が進んでいない。

 ベーシック・インカム(BI)について各国で活発な議論が行われているとのOECDのメールは、その意味で驚きであり、新鮮だった。もちろんBIは万能薬でもないし、どう設計するかで損をする人、得をする人が出てくる。OECDは「全体として予算中立的なベーシック・インカムを実施するには、増税と既に多くの人が受けている給付の削減が必要で、勝者と敗者を生むことになるでしょう」と書いている。

 実際に人々の所得への潜在的な影響を評価するためにフィンランド、フランス、イタリア、英国についてOECDの専門家がシナリオを描いたともメールに書いてあった。

 人口減少、高齢化の急速な進行という社会の大変化に対応し、法制度などを変えながら、どうやって、より公平で活力のある社会にしていくか。構造改革と言い、規制改革と言うのも、そんな大きなビジョンの下で行われてこそ、うまくいくのではないか。改革によって損をする人たちを最終的に納得させるのも説得力のあるビジョンだろう。

 メリット、デメリットを明らかにしながら、国民の理解を得る。そんな手法、議論のあり方がすっかり影を潜めてしまった。黒沢明監督の悪いやつほどよく眠るベーシック・インカムの入門書を読みながら、そんなことを考えた。そして、黒沢明監督の「悪い奴ほどよく眠る」(1960年)のDVDを見た。三船敏郎演じる主人公の友人役の加藤武が最後に叫ぶ「これでいいのかー」を聞くためだ。東京で起きていることは田舎ではよく分からない。ただ一人「これでいいのか」と思うだけだ。そんなことで今日は開店休業の一日になった。

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