認知症と免許と悲哀と

クルマが突っ込む事故があった大分中村病院 大分中村病院で起きた事故以来、大分県内では高齢者の運転免許の自主返納が増えているそうだ。家族が安全を考えて返納を勧めているという。佐伯市認知症サポート医・オレンジドクターネットワーク研修会が5日夜開かれた。テーマは高齢者の運転。そこで冒頭の話があった。特に問題になるのは認知症になった高齢者対策である。自主返納が広がればいいが、さまざまな理由でクルマの運転を続けたいと思う人もいるだろう。そこで関係者が協力して返納を円滑に進めようと佐伯市をモデルに専門者会議が設立されることになった。

 研修会ではまず、佐伯市地域包括支援センターから「佐伯市の認知症施策について」の簡単な説明があった。続いて大分県警交通部運転免許課の「改正道路交通法における高齢者対策」が説明された。話を聞くと、75歳以上の高齢者にとって運転免許を更新することが物理的にも心理的にも難しくなってきている。

 以前は運転免許の更新時に認知機能検査を受け、「第1分類」という最も点数の低い人たちも続けて運転することができた。改正道交法の説明が行われたそれが、免許更新時に第1分類と判定されると、ただちに臨時適性検査か医師による診断書提出が求められることになった。

 医師の診断で認知症とまでは言えないが、認知症が疑える場合は半年ごとに診断書の提出が義務づけられる。認知症とされた診断書を本人が受け取ることを拒否した場合はどうなるか。診断書を提出しない場合は免許の停止などになるという。

 警察としても免許の停止や取り消しの処分をするよりも自主返納をしてほしいというのが本音だろう。意志に反して取りあげられたと思えば本人の自尊心が傷つくだろう。

 早くに運転免許をとり、クルマを持つことは憧れであり、ステータスであった。テレビのコマーシャルとともに自分のクルマに乗ることがかっこいいというイメージを植え付けられてきた。

 そんな人間の一人である自分が認知症と診断され、運転はダメと言われたらどうか。そんなことを想像すると、いささか高齢者に同情もしたくなる。免許証を返納した高齢者の中にはそれを忘れ、無免許で運転しようとすることもある。家族が見つけて中古車販売業者に連絡し、その場で処分したケースもあったという。もはやクルマが切っても切れない生活の一部になっているということだ。マイカーを取りあげられた高齢者はどんな思いだったのだろう。

 みんなの安全のため、本人のためと言っても心底納得していないかもしれない。佐伯市であった行政、警察、医療関係者の研修会そこで関係者が集まって専門者会議を開く意味がある。本人の自尊心を傷つけずに気持ちよく返納をしてもらう。そのためにどうすればいいのか。行政、警察、医療・介護従事者など関係者が集まって考える。医療や介護の現場で当事者により近い看護師などと比べ、強い権限や立場にある医師や警察官は高齢者本人の気持ちの揺れに気づきにくいのではないか。

 改正道交法によって医師の負担も大きくなるのではないか。医師にも不安がある。かかりつけ医が診断書を求められる機会は増える。認知症サポート医は、かかりつけ医の認知症診断などに関する相談・アドバイザー役を務める。オレンジドクターとは認知症の早期診断・早期支援体制の充実を図るために大分県が実施する認知症医療の研修を修了した医師。研修会に集まった医師はそれなりの知識がある。

 それでも診断書作成と本人への告知の時期など実務上の疑問や不安はある。関係者が一堂に集まって話し合う意味は、こうした細かい疑問を一つ一つ詰めていくことにもある。

 さらに大きいのが情報の共有だという。仮に警察で免許の停止や取り消しの処分を受けても、その個人情報がそのまま市町村に行くわけではない。大事な交通手段を失った高齢者を支援するために自治体にもそれが伝わる方法はないか、情報を共有するやり方はないか。専門者会議では、それも重要なテーマになるとのことだった。

 マイカーの普及を国は後押しした。クルマの増加を追いかけるように道路の整備が進んだ。運転免許を持つことが常識になり、高速道路は全国各地に伸びていった。クルマ社会の推進は日本経済の成長の原動力となった。そして、地方ではバスや電車など公共交通機関は細っていった。都市は郊外へと大きく広がり、クルマなしでの生活は考えられないものになった。

 高齢者の免許を進めるのなら国はクルマに頼らない「ポスト車社会」の姿、あり方を示し、その実現を図る必要がある。それをしないのなら認知症の高齢者も安心して運転できるクルマの開発で自動車メーカーの尻をたたく必要があるだろう。

 ところで、大分中村病院の事故を覚えておいでだろうか。5月2日に起きた。薬の処方のために病院を訪れた女性、76歳が運転する軽乗用車が病院正面の資材搬入口のガラス戸を突き破って、ロビー内を進み、運転女性を含む18人が負傷した。当時の記事を見ると、アクセルの踏みすぎが原因との警察の見方が書かれていた。

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