「ゆふいんの森号」走る

豊後中村駅を通過する列車 博多発由布院行きの特急「ゆふいんの森1号」が豊後中村駅のホームに入って来たのは午前11時34分だった。7月14日の土曜日。二駅先の終点・由布院駅の到着予定時刻は11時36分。ゆふいんの森1号は遅れていた。豊後中村駅前では、刺すような日差しの下、人々が色とりどりの風船を手に、列車を待ち続けていた。この日はお祝いだった。昨夏の九州北部豪雨で一度は切れたJR久大本線がほぼ1年ぶりにつながった。そして、ゆふいんの森号は久大線には欠くことができない主役というべき列車だった。

 昨年7月の豪雨で、日田市内の光岡駅~日田駅間にある橋が流され、福岡県久留米市と大分市を結ぶ久大線は途切れた。大急ぎで新たな鉄橋が架けられ、全面復旧、全線開通の日を迎えた。

ゆふいんの森号のお出迎えを呼び掛けるボード JR九州のホームページでニュースリリースを探すと、全線開通初日のイベント案内があった。運転再開初日の博多発「ゆふいんの森1号」に合わせて沿線各駅で記念行事が予定されている。大分県内では日田駅(午前10時20分~同50分)、天ヶ瀬駅(午前10時半~同11時)、豊後森駅(午前10時45分~同11時15分)、由布院駅(午前11時~同45分)でイベントが企画されている。

ホームに祝賀の横断幕が 日田駅は新聞・テレビの取材陣も多かろう。そう考えて、一つ手前の天ヶ瀬駅に行ってみることにした。できれば、天ヶ瀬を始発に「杉河内」「北山田」「豊後森」「恵良」「引治」「豊後中村」「野矢」「由布院」の各駅を訪ねてみたい。当方の足はもちろんクルマである。

 出発点の天ヶ瀬駅には午前10時過ぎに着いた。ゆふいんの森1号の同駅発は午前10時54分。とりあえずホームの風景を撮るために窓口で入場券160円を購入した。ホームにはイベントの関係者が準備を進めている。「あまがせ女将の会」と書かれた祝賀の横断幕もあった。「ゆふいんの森号」が停まるのは日田に続いて天ヶ瀬。その次は豊後森で、後は終点の由布院。その分、豊後中村など普通列車しか停まらない駅に比べれば天ヶ瀬駅発着の列車の本数は多い。

天ヶ瀬駅の隣の杉河内駅 日田・久留米・博多方面の上りが1日14本。由布院・大分・別府方面の下りも14本。このうち特急の「ゆふいんの森号」が3本、「ゆふ号」が3本。残りは普通列車で上りは久留米行きが1本で、日田行きが7本。下りは大分行き6本で、由布院、豊後森行きが各1本。光岡~日田間が不通になっている期間は、特急列車を除けば、普通列車で支障があったのは上りの久留米行きだけだったということになる。

 この地域で、鉄道が生活に欠かせない足、主役だったのは、いつの頃だったのだろうか。杉河内駅の横断幕本数だけをみても、地域交通の主役にないことは明らかだといえる。ちなみに久大線だけが通る駅で、1日の乗降客が最も多いところはどこか。JR九州のホームページに2017年度の数字があった。ざっと見ると、久留米大学前駅が1287人で、JR九州の駅別ランクで134位。由布院駅が1015人で164位。日田駅が648人で216位。日田・玖珠地域の駅では、ほかは豊後森駅が「100人以上」の駅の一つとして名前が載っているぐらいのようだ。

 ここで一言加えれば、由布院駅には観光客とともに通勤・通学の利用者がある。慈恩の滝の前で列車を出迎える上りの普通列車は天ヶ瀬駅などと変わらない8本だが、下りの大分方面は19本。県都大分への通勤・通学圏にあって一定の需要があるということだろう。もっとも今年3月のダイヤ改正で大分駅発由布院行きの本数は減ったようだ。利用者の減少傾向に歯止めがかかっていないということだろうか。

 さて、途中のどこかで、運行再開初日の「ゆふいんの森1号」をカメラに収めるとして、少し先を急ぐことにした。清掃をした中学生に伝言が。次は北山田駅。駅舎に入ると、伝言板があった。「北中生(北山田中学校)の皆さん清掃ありがとう。本日は久大線が開通する日です。11時ごろ通過するゆふいんの森号をお迎えするための鯉のぼりです」とあった。短い階段を上がってホームに出てみると、両サイドに風を受けて鯉のぼりが泳いでいた。

 ここで何枚か写真を撮って、豊後森駅に向かうことにした。豊後森駅に着いたのは午前10時45分ごろ。豊後森駅の駅舎時刻表通りならば、ゆふいんの森1号は日田駅を出て天ヶ瀬駅に向かっているころだ。豊後森駅は11時08分発の予定。もう少し先で列車を待つことにして次の駅へと急いだ。

 国道210号沿いにあった北山田駅までと違って、豊後森駅も次の恵良駅も国道から少し離れた場所にある。道路標識を見落とさないように注意しながら、新しそうな駅舎が見えた大方の見当をつけて国道210号を外れて、左に折れた。しばらく行くと、踏切があった。踏切を渡って左に曲がると、八鹿酒造が見えてきた。恵良駅はその正面にある。無人駅とは思えない。駅舎も新しそうだ。この駅でも記念行事が企画されていると聞いてきたのだが、誰もいなかった。

 駅舎の中には「九重町先哲史料館」と書かれた施設があった。恵良駅舎内の史料館インターネットでチェックしてみると、2014年に以前の駅舎が火事で全焼後、地元の偉人である麻生観八の功績を称えるための史料館と合わせて町が駅舎を建て直したようだ。駅舎の土地建物とも九重町の所有らしい。そういえば臼杵市も上臼杵駅などの用地を所有していた気がする。

 ローカル線はJRの努力だけでは維持できない。祭りの山鉾が特急列車を待つ沿線自治体や地域のさまざまな、物心両面にわたる支援が欠かせない。だが、と考える。利用者が減る中で鉄路を維持する意義、意味は何なのだろうと。観光客の足として不可欠だからか。水田の間に久大線の線路がある「ゆふいんの森号」など鉄道を使って日田・玖珠・由布院などを訪れる旅行者の割合は、観光客全体の何割ぐらいなのだろうか。マイカーや観光バスに比べると、鉄道利用者はかなり少ないのではないか。鉄路を維持するのは何のためか、将来どうするのか-。

 全線開通、全面復旧はローカル線の将来ビジョンを考える格好の機会になる。セレモニーを報じ、お祝いムードを演出することも大事だが、地域を考える報道という意味では、これだけでは物足りない-。駅を巡りながら、そんなことも考えた。

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